偽善者


私は、偽善者と言われることがある。

漢字の意味をそのまま受けると、偽者の善人ということになる。

「お前は偽者の善人だ!」

と言われたようなもの。

ということは、少なくとも悪人ではないということか。

「お前は偽者だが、善人だ!」

とも受け取れる。

でも、善人だと言われているわりには、あまりいい気がしない。

やはり偽者だからだろうか。

それなら偽悪者はどうだろう。

偽者の悪人なのだから、本当の悪人ではない。

あまり使わない言葉だが、それにしてもやはりいい気はしない。

「お前は偽者の悪人だ!」

と言われたと思うと、半端な感じで妙に情けない。

せっかく言われるのなら、

「お前は悪人だ!」

のほうが、なんか認められた気がしていい。

いや、この際、

「お前のような極悪人は、この町から出て行け!」

くらい言われたほうが、さまになる。

 

話がそれてしまった。

私が言われたのは、偽善者なのだった。

「私を極悪人だとののしって、この町から追い出してくれ」

などとお願いしてもはじまらない。

ならば、辞書で正確な意味を調べてやろう。

私の辞書には ’偽善者’の文字がなかったので、’偽善’を調べてみる。

”本心からでなく、うわべをつくろってする善行”

とある。

なるほどね。

本心でやっていないから、偽者ということか。

本心で行っていない善行。

いい人と思われようとしていいことをすると、それは偽善になるということだ。

なんだか疲れそうだな。

そうなると、偽善者は常に必死なんじゃないか?

他人によく思われようとして、必死にいいことをしている。

本当の善人なんて、自分が心の底から他人を助けたくて助けているにすぎない。

でも偽善者は、助けたくもないのに他人を助けて、したくもないのにいいことをしているのかもしれない。

本当は他人を陥れることばかり考えていても、その悪の心を覆い隠して善人のように振舞っている。

そう考えてみると、偽善者は相当な努力家なのかもしれない。

必死で善人を装っているのだ。

いや、私は全然努力などしていない……。

 

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