厳しい現実


私は半端ではないほどのドライブ好きだが、昨年9月に犬を飼ったので、最近は犬と車中泊ドライブに行くようになった。

2003年から4年にかけての年越しも、四国を一周することにして、シュラフ(寝袋)を積んでドライブに出る。

途中、徳島県阿南市を走行中、銀河(犬の名前)がシュラフの上をくるくる回って、糞をする時のしぐさを見せ始めた。

ここでシュラフを汚されたら、その場で旅終了となり高速で帰宅の憂き目を見る。

私は慌てて車を道路脇に停車させ、銀河がシュラフの上に乗れないようにするために、車の後ろへ回った。

幸い道路脇はゼブラゾーンになっていたため、停車はよくないがとりあえず他の車の通行の妨げにはならない。

車の後ろ側のドアを開けて、シュラフを奥に押し込んで銀河が上れないようにする。

その間、銀河がいつものように喜んで暴れている。

とりあえず気にせず作業を続けていたが、ふと気付くと銀河の姿がない。

ひやっとして車内を見回したが、やはりいない。

車は車道の脇に停車させただけなので、銀河が降りていたら・・・

振り返ると、銀河が車道を後ろへ向かってとことこと歩いている。

横を車が走っていく。

このまま銀河が車のほうへ寄ればそれでアウト。

捕まえるしかないのだが、捕まえにいくといつも逃げてしまうので、かえって追い込む可能性もある。

それでもやはり捕まえる以外に道はないので、静かに銀河に近づいた。

銀河が私に気付く。

逃げる、そう直感した私は、銀河に覆いかぶさるように飛びついた。

多少怪我をさせてもいい、逃がしたらそれで終わりだ。

飛びついた瞬間、銀河が少し鳴いた。

 

しっかり捕まえている。

銀河は鳴いたが、特に怪我はなさそうだ。

まるで犬を助けた名場面を実演したような気分で、銀河を抱いて車に戻る私。

「いいことをしたなぁ」

と思っていたが、単なる私の不注意である。

安心すると、ひざの痛みが響いてきた。

どうやら飛びついた時にひざを擦りむいたらしい。

子供みたいだな、と思いながら、ズボンをたくし上げた私の目に厳しい現実が待っていた。

骨が飛び出していた、とかいう類のものではない。


いやそれならまだ治る可能性は十分ある。

私が見たそれは治ることはない。

ただただ、よりいっそうひどくなるばかりのもの。

銀河を助けた感動も吹き飛ばして、しばし愕然としていた。

 

たくし上げたズボンの下の私の足は、いつの間にかおっさんの足になっていた。

 

 

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