「なるほど、この館にいたのはあの3人ということだな。
つまり他の人間にこの犯行は無理ということだ」
探偵山岡八助はそう断言した。
「えぇ、この館の主、如月剛三とその妻の弥生、そして庭師の大熊清信の3人です」
助手の島田公平が、まわりにいる警官達に説明するような言い回しで応える。
その時、一人の若い警官がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
息を切らして走ってきたその警官は、神妙な面持ちの中に少し得意げな表情を浮かべながら言った。
「実は、被害者が死ぬ間際に書いたと思われるメモが見つかりました」
「ほぅ、どんな」
山岡と島田が同時に聞いた。
「はい。それが妙な内容で、ただ2月3月とだけ・・・」
「2月3月?」
島田は少し苛立ったような表情を浮かべながら言った。
「2月3日じゃなくて、3月で間違いないんですね」
「えぇ、確かに2月3月でした」
警官からも得意げな表情がすっと消えた。
「2月3日なら、その日が誕生日の人が犯人とか、考えようもあるんですがね・・・。どう思いますか?」
島田は山岡の表情をうかがいながら聞く。
「なるほど、2月3月。犯人はわかったよ」
山岡はあっさりと答える。
「誰なんですか?」
「2月、3月。日本の昔の言い方ではどうなるかな?」
「日本の昔の言い方・・・。」
島田はしばらく沈黙した。
「そうか! 如月、弥生だ!」
「そう、犯人は妻の如月弥生だ」
− 完 −
− エピローグ −
報告に来た若い警官は、言いにくそうに口を開く。
「いや、あの、それだけでは・・・」
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